外科医のつぶやき(生駒 明先生)

ikoma akira

 私は1980年に鹿児島大学第二外科に入局して、外科医としてスタートしました。

 今年で外科医になって33年になります。  

 最近外科医は「きつい」「汚い」「危険」と形容され3Kと言われたり、”high-risk, low-return”と言われたり、残念ながら医学部の学生にあまり人気がありません。日本外科学会でもしばしば外科医の減少が問題になっています。

 しかし私が外科医をスタートした頃は、外科医は確かにきついが、非常にやりがいがあると、若い外科医同士でよく話していました。

 急性腹症や癌など、激しい痛みや死への恐怖のために苦しんでいる患者さんが、手術後には苦しみから解放される訳ですので、治療に成功したときの達成感や喜びは、内科医に比べてはるかに大きいように感じます。このようにやりがいのある外科医ですので、何とか医学生が外科医を目指してくれるようにならないものかと感じずにはおれません。

 最近、内視鏡外科の普及によって外科医の3Kの「きつい」がかなり軽減されているように感じます。私は40歳までは開腹手術だけを行ってきて、41歳から腹腔鏡下手術を始めました。 

 1997年に42歳のときに鹿児島大学第二外科を辞して生駒外科医院に勤務してからは、胃癌、大腸癌にも積極的に腹腔鏡下手術を導入しました。開腹手術と腹腔鏡下手術の比較では長期的な予後には差がないようですが、術直後1週間以内には大きな差が見られます。

 腹壁の破壊が小さいため、創部痛が軽度であるだけではなく、呼吸機能の低下も少なく、大きな開腹手術のあとに比べると、患者さんがとても楽そうにしておられるのが印象的でした。

 腹腔鏡下の胃癌や大腸癌の手術後には、ほとんどの患者さんが1日目に二千歩歩くことができます。開腹手術の時代には術後管理のために病院に泊まり込むこともよくありましたが、腹腔鏡下手術では術後管理が非常に楽になり、拘束される時間がかなり減少し、趣味や余暇を楽しむ時間もふえました。

 内視鏡下手術は手技が開腹に比べてやや困難ではありますが、患者さんに低侵襲であるのみでなく、外科医にとってもかなりの恩恵があるものと思います。

 先日福岡で開催されました第113回日本外科学会定期学術集会に出席してきました。

 九州大学消化器・総合外科(第二外科)の前原喜彦教授が会頭を務められ、「創始と継志」をメインテーマとされました。

 消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、移植など各分野のパイオニアの先生とその研究を引き継いでさらに発展させている先生が、それぞれ「創始」と「継志」というテーマでお話されました。外科学は常に基礎的研究と臨床研究を重ねながら進歩し発展してきたことがよくわかりました。

 内視鏡外科もさらに進歩しており、消化管に対するものはもちろん肝膵などの実質臓器に対する内視鏡手術も、グリソン一括処理による肝切除術や膵頭十二指腸切除術などの高度技能の術式が、若手の先生方から多数発表されていました。少子高齢化により癌の患者さんを治療する機会が増えることが予想されますので、ますます外科医の重要度は増すように感じます。

 医学生や初期研修医の皆さんが将来の進路として外科を選択していただくことを大変期待しております。