第68回鹿児島県臨床外科学会総会・医学会特別講演会の抄録について

大阪市立大学大学院医学研究科 腫瘍外科学 教授 平川 弘聖 先生が

講師を務めてくださいます標記特別講演の抄録をアップいたします。

講演会は8月9日(土)17:00からとなっております。

多数の先生方のご参加をお待ちしております!!

外科診療の変遷―EBMとともに―    大阪市立大学腫瘍外科 平川弘聖

 

 医療とくに治療法の変遷はどの領域においてもいろいろな要因によってもたらされる。新しい技術(機器)、新薬の導入、新しい概念(発見)や客観的な科学的根拠(evidence)などが要因としてあげられる。新しい技術(機器)や新薬の開発によって外科治療から内科的治療やIVRへ移行したしてきた例(胃潰瘍、早期消化器癌、肝癌、血管障害など)がみられる。また40年近く前に私たちが実践してきた外科診療の多くは経験的事実を客観的に認識する医学(ドイツ医学)が底流にあった。そのなかで経験に基づく診療、高名な外科医の提唱する治療法や各施設で脈々と継承されてきたものが確たる根拠もなくおこなわれていた。その後英米型の臨床重視の医学が導入されるようになり、生理学的裏付けはともかく臨床結果における裏付けを根拠にする医療が主流になり今日に至っている。これが医療において科学的根拠に基づいて診療方法を選択すること(EBM)として現在定着している。EBMはこのように、通常行われている診療行為を科学的な視点で再評価した上で、現状で最善と思われる医療を目の前の患者にどのように適用するかに最も関心がおかれる。科学的根拠はevidence levelで信頼性が評価されるが、最も根拠が高いのはランダム化比較試験(RCT)とされ、ガイドラインの推奨度にも反映される。外科領域においてEBMの導入の代表的な例として乳癌治療の変遷があり、Halstedの手術から乳房温存手術への流れが挙げられる。

 近年本邦においても外科手術に関連したRCTも広くおこなわれてきた。リンパ節の廓清範囲、開腹手術VS鏡視下手術、化学療法や手術材料の選択などにおいてそれぞれ優越性や非劣性が検証されている。これらの臨床試験から導きだされた結果は対象患者にすべて適応されるわけではない。医療をマニュアル化することがEBMであるとする誤解がときにみられるが、RCTの功罪を認識することが重要である。科学的根拠をわかりやすく説明し、多角的な判断のもとに個々の患者さんに相応しい診療を行うことが基本である。 最後に教室におけるtranslational research の紹介をさせて頂きます。