手術手技の習得方法と平静の心(aequanimitas) (今村病院 帆北 修一先生)
外科研修中の皆さんと外科に興味をお持ちの方へのつぶやきです.
外科医を志す皆さん,ならびに現在外科研修中の皆さんは,自分が手術を上手にできるようになることを常日頃から考えておられると思います.
手術手技の習得の方法については様々な考え方があります.見て覚える,実際にさせてもらって覚える等々あります.手術を数多く見ても,眺めているだけでは,手術はできるようにはなりません.日頃若い先生方へつぶやくことですが,皆さんは手術を漠然と眺めています.解剖学,手術の手順,使う器具を理解して手術を見てこそ手術を見ているといえます.さらに手術の助手をした場合,術後に頭の中で手術を最初から最後まで再現できるとその手術が自分のものとなります.もちろん,実際に術者として自分で手術を組み立てることができれば一人前となります.
1995年京都で第1回国際胃癌学会が開催され,私は愛甲 孝教授に胃癌手術のビデオを編集するようにいわれました.教授の発表されるビデオですからかなり責任重大です.当時の編集機器は非常に古いアナログで,常にオリジナルのテープからの編集となります.再三再四のやり直しのすえ,ようやく学会に間に合いましたがその間同じビデオを飽きるほど見ることになりました.この作業をとおして愛甲教授の手の動きを少し真似ることができるようになったと思います.
近年はパソコンの進歩で手術を容易に見ることができるようになりました.鏡視下手術の比率が大きくなり,手術の記録がDVDに保存されるようになり,いつでもどこでも手術を見直すことができるようになりました.若い時期から全国の先生方の上手な手術手技を容易に見ることができることは非常に恵まれた環境にあると思います.この恵まれた環境をいかに利用するかは,若い皆さんの心がけ次第です.
解剖学がいかに大事かということも忘れてはなりません.外科解剖学の教科書・論文を探すことも容易となり,また理解しやすいものが数多くあります.手術を見ると同時に解剖学的な基礎的裏付けを学ぶことが重要です.
私は学生時代から漠然と胃癌診療に携わりたいと考えておりましたので,1982年鹿児島大学第一外科に入局しました.西 満正教授に手術の概念的な事を,島津久明教授に学問に対する姿勢を,愛甲 孝教授に手術を教えていただきました.現職の夏越祥次教授とは,教室で机を横にして仕事をさせていただきました.いずれの教授も上部消化管が御専門でこのような素晴らしい教授に師事できたことはとても幸せです.
最後に私の座右の銘を紹介いたします.“平静の心(aequanimitas)”は、ローマの五賢帝の一人アントニウス・ピウスが座右の銘としたそうです.この“平静の心”はアメリカの医学教育において有名なジョンズ・ホプキンス大学教授ウィリアム・オスラー博士の講演のタイトルでもあります.
外科医として常に“平静の心”で診療をし,向上心を持ち続けたいと考えております.