外科医のつぶやき―これから外科医を目指す皆さんへ―(霧島市立医師会医療センター外科 風呂井 彰先生)

 

還暦を過ぎ孫が我が腕の中で眠る姿に“爺(じじ)”として心の安らぎを感じる年齢になり,外科医としての40年を振り返ってみました.

<外科医/医局を選んだ理由>

私は元々僻地医療を志して医師の道を選んだ事も有り,将来の事を考え,簡単な外科的処置も出来,かつ僻地で必要とされる広い分野が学べる教室を入局基準に置いていました.当時,第2外科(秋田八年教授)は,肝胆膵外科を中心とした消化器外科,心臓血管外科,小児外科,呼吸器外科など幅広い分野の外科を修業できる環境にあり,医局訪問時の居心地もよく(肌に合った感じ),入局を決めました.

<外科の面白さ>

外科の面白さは,①手術手技の一つ一つにきちんとした理屈付け(理論・定理)があり,理論通りに行えばそれなりの良い結果が期待できること,②数学で難解な応用問題が基本定理のいくつかの組み合わせで解けるように,思いもせぬ事態に遭遇しても,または一見複雑な手術でも基本手技や基本概念の組み合わせで対応可能なことが多い事,③人間のなせる技なので努力次第では誰でも「神の手」になる可能性を秘めている事,④緊急手術ではドラマティックな展開が期待できること,⑤各種画像の読影・術前診断が正しいかどうか実際に生で検証できることなどでしょうか.もちろん苦労した患者さんが元気に退院されるときの喜びは臨床医共通のものと思います.

<外科医の厳しさ>

外科医を目指す皆さんにとって最大の障壁は医療訴訟の心配ではないでしょうか.例えベストを尽くしたとしても思わしくない結果(最悪では術死)を招くと,自分の手技や判断に誤りがあったのではないかと自己批判・自己嫌悪に陥ります.意気消沈しているところに患者家族から責められ,時に訴訟となると心は折れそうになります.泣いていても何も生まれず,次に手術を控えている患者さんのために涙を拭いて立ち上がり,前を向いて,心を新たにしてメスを握ります.40年の外科医の間に何度かこんな経験をしました.もちろん十分反省し,得たことを次の患者さんに生かすような努力は必要です.しかし,完璧な人間は誰もおらず(human is error),万が一訴訟になっても一般常識的にはどう判断するのかを知る良い機会と捉えると心の負担は軽くなるように思えます.

<外科医として影響を受けた医師>

 40年の間に私はたくさんの外科医と出会い教えを受けました.最大の出会いは最初の指導医です.手術手技も一流,歌も囲碁もプロ並み,情熱的で思いやりのある指導医にぞっこん惚れました.ある時,人工心肺の経験のある指導医だったためか私の修行のため心臓手術の術後管理を任されました.「消化器外科医とは言え何かあれば心臓マッサージぐらいできる」と患者のベッドのすぐそばに横になり一緒に徹夜しました.当時,3人目の2弁置換成功例となり,医療には,技術や頭脳だけでなく患者を救おうという心(情熱)が必要なことを学びました.

<最後に,これから外科医を目指す君たちへ>

惚れた医師か品格を感じる指導者がいて,居心地の良さそうな医局に入局してください.患者のより良い治療の為に議論し上司に意見することを躊躇しないでください.無限の可能性を秘めた外科医としての面白さを感じてください.いつもベストを尽くし,うまく行かなくても,それを次に生かすことで乗り越えてください.On Offのメリハリをつけ,たまには遊んでください.手術はコメディカルを含めたチーム医療です.チームを大事にしてください.